細田暁の日々の思い

土木工学が専門で、コンクリート構造物の耐久性・維持管理、豊穣な社会のための防災、建設材料開発、建設マネジメントなどの研究に従事。豊穣な社会研究センターのセンター長。

元気研オンラインセミナー「社会が求める技術を読み解く教養」の要旨

11/18に実施した1時間のセミナー(動画もアップしてます)の骨子をAIにまとめてもらいました。

本セミナーのテーマは「社会が求める技術を読み解く教養」であり、インフラ技術を中心に、技術者としての教養や感性の育成、社会的責任、教育の在り方について議論が行われた。登壇者は、香川高専の林先生(コンクリート工学専門)、横浜国立大学の榑沼先生(芸術学・思想史専門)、豊穣な社会研究センター長の細田先生(コンクリート専門)、そしてコーディネーターの松永所長である。

1. セミナーの趣旨と背景

細田先生から、インフラ技術が社会に与える影響の大きさが説明され、歴史・文化・国家観を踏まえつつ、将来の社会像を描きながら新技術に挑戦する視点を議論することが本セミナーの目的とされた。松永所長は、人口減少、少子高齢化、老朽化する構造物、分断化・専門化の進展、災害や地球環境問題など、現在の社会が抱える課題を提示。特に、従来の欧米型都市化・高度経済成長期型インフラの延長では、未来の社会課題に十分対応できない可能性が指摘された。

2. 専門化と分断の課題

林先生は、コンクリート工学分野の教育・研究を通じ、橋梁メンテナンスに関わる社会人教育を実施している。ここで指摘された課題は以下の通り:

・専門分野が細分化され、材料・施工・設計・診断など各分野が孤立化している。

・専門家間で知識が共有されず、社会全体のインフラ維持に必要な総合的な理解が不足している。

・若手の早期離職や人材不足により、全体像を把握できる人材が減少している。

林先生は、教育の基本軸として「概念理解」と「用語・数値の習得」の二軸を提示。初学者は左下(理解なし・記憶のみ)から右上(理解・習得済み)のプロフェッショナルへ成長するが、概念理解を優先した学習(右下)により独学やAI活用で成長余地が大きくなると指摘した。

3. 歴史・物語による学習と動機づけ

細田先生は、技術者教育において「本物の技術者」の事例を示すことの重要性を述べた。ここでの「本物」とは、公のために誠実に尽力し、私利私欲に走らず使命感を持つ技術者を指す。

林先生も、学生に土木の歴史を通して過去の技術者の取り組みを伝え、現代に活かす教育を実施している。具体例として、コンクリート製造から建設・解体までを体験する「ゆりかごから墓場まで」の学習プログラムを紹介し、学生が物理的に現場を見て学ぶことで全体像を理解できるようにしている。また、現代ではYouTubeなどの情報発信を通じ、土木技術の価値や物語を広く伝える取り組みが重要とされた。これは、従来の文献中心の教育では見えにくかった歴史的文脈や社会的価値を補完する役割を果たす。

4. 教育の方法論と総合的理解の促進

林先生は、教育の工夫として以下の点を挙げた:

・専門分野の断片化を補うため、歴史や全体像を示す。

・概念理解を重視し、必要に応じて情報収集・分析できる力を育成。

・実際の現場や事例を体験させることで、抽象的知識と現実世界を結び付ける。

細田先生はさらに、「全体像を理解できる人が少ない」現状を指摘。若手は情報の分断により全体を把握できず、先達の知識や経験の伝達が不可欠であると述べた。

榑沼先生は、教育におけるリベラルアーツの重要性、すなわち「アーツ=分断された知識をつなぐ能力」を強調し、学びの楽しさや冒険心を通じた理解の深化が重要と述べた。

5. 社会人教育と「目利き」の育成

インフラ維持・点検の現場では、専門家不足や分業化により、適切な判断ができないまま業務が進められることがある。林先生と細田先生は、以下のような課題と解決策を示した:

・分業化により、本質的な診断・判断ができる人材が不足。

・「目利き」を育成し、権限を持つ者が本質を理解して判断できる体制が必要。

・社会全体で正しい判断を支えるガイドラインや教育・技術開発を整備することが重要。

細田先生は、メンテナンスの現場では「ほっといてよい傷」を見極める力が必要であり、経験と直感に基づく判断力が不可欠であると述べた。このため、国家レベルで分野ごとの「本物の目利き」を育成する仕組みが必要であると指摘した。

6. 技術者としての姿勢と社会的役割

松永所長は、過去の大規模インフラ事例(黒部ダム、瀬戸大橋)を例に挙げ、技術者は「できること・できないこと」を正確に把握し、社会問題を解決する視点で行動すべきだと述べた。これにより、技術者の使命感や協働意識、誠実さが支えられると整理された。さらに、セメントのように接着効果のある人材(幅広くつなぐ能力を持つ人材)を育成することが、現代の複雑な社会におけるインフラ構築・維持に不可欠であると述べた。

7. 教養教育と総合的な視座の必要性

議論を通じ、以下のポイントが示された:

・インフラ技術者には専門知識だけでなく、歴史・社会学・哲学など幅広い教養が求められる。

・教育・訓練では、現場体験・歴史事例・情報発信を組み合わせ、概念理解と実務能力を同時に育てる。

・若手が全体像を把握できるよう、経験豊富な先達による指導と、社会的な仕組み(ガイドライン・標準化)が重要。

・技術者の倫理・誠実さ、利他性の教育も社会全体で継続的に実施すべき。

・「目利き」能力の育成が、社会全体での安全・効率的なインフラ維持に不可欠である。

8. 今後の課題と展望

・教育現場では、専門分化を超えた総合的理解を促すプログラムの充実が必要。

・社会人教育や再教育においても、概念理解と実務体験を組み合わせた学習機会の提供が重要。

・技術者の倫理教育、誠実さや利他性の育成を社会全体で支える仕組みづくり。

現代社会の情報過多時代に対応するため、良質な情報や教材を整理・発信するキュレーター的役割の人材育成。

・将来のインフラ構築・維持に向けて、接着剤的役割を持つ幅広い視野の人材(総合的判断力を持つ技術者)の育成。

本議論では、単なる技術の習得にとどまらず、社会全体の持続可能性を見据えた総合的な教養教育の重要性、歴史・現場体験を通じた学習、倫理・使命感の涵養、そして全体像を把握する力の育成が繰り返し強調された。現代の分業・専門化が進む社会において、技術者には単なる技能者ではなく、社会問題を俯瞰して解決できる「接着剤的人材」としての役割が求められる。